課題
- 紙資料に頼った調査は属人性が高く、根拠を探す手間と不安が大きかった
- 異動のたびに知識の継承が難しく、判断の一貫性が保ちづらい場面があった
- 納税者からの問い合わせに対して、明確な根拠をもとに即答することが困難だった
導入のポイント
- 実務書籍や法令通知、判例などを横断的に検索でき、必要な情報にすぐたどり着ける
- 操作画面が直感的で、ITに慣れていない職員でも安心して使えると感じた
- 試行が進んでいた生成AIとの併用により、調査の「裏どり」がよりスムーズになると期待した
効果
- 判断の根拠をすぐに確認・提示できるようになり、市民対応の質と安心感が向上した
- 中堅層を中心に知識の共有が進み、若手から管理職まで一貫したスキルギャップの緩和にもつながった
- 資料を手作業で探す時間が減り、業務全体の流れがスムーズになった
長野県東部に位置する佐久市は、浅間山を望む自然豊かな環境が魅力で、暮らしやすさに定評があるまち。DXを推進する同市では、固定資産税課において業務の属人化や判断根拠の共有に課題がありました。こうした背景のなか、トライアルを経て「固定資産税のAIせんぱいkopo」(以後 kopo)を導入。職員の“調べる力”と“判断の自信”を支える新たな情報インフラになっています。今回は、導入の背景と効果、実際の活用の様子についてお話を伺いました。(2025年6月取材)
調べたい情報にたどり着くまでがひと苦労
紙資料と経験に頼る日々の調査業務に奮闘していました
固定資産税の実務を担う中で、日々感じていた業務上の課題を教えてください。
市役所の税務課で業務を進める中では、「もう少し調べやすければ」「すぐに根拠が見つかれば」と感じる場面は少なくありません。固定資産税の実務でも、調べたい情報にたどり着くこと自体がひとつの課題でした。
「これは、どの判断基準に当てはまるのか?」と迷うことは、実務の中では日常的にあります。『固定資産税実務提要』や『月刊「税」』、『地方税質疑応答集』など、資料は揃っているのですが、分厚い紙資料の中から目的の情報を探すには、相応の経験と勘が求められます。
評価や課税の根拠を市民に説明する場面では、特にその難しさを痛感します。現況地目の判断や、評価区分の読み解きには専門的な知識が必要ですし、たとえば宅地と畑が混在する土地で「どの割合でどの課税が適用されるのか」といった判断には明確な線引きがない場合も多い。そういった時、どこに根拠があるのかを探す作業に時間がかかり、調査への迷いも大きくなりがちです。
私自身、着任したばかりのころは、「この地目でなぜこの評価なのか」「どうしてこの土地の税額が上がったのか」といった市民からの問い合わせに対し、どの資料をどう参照すればいいか悩むことが多くありました。目的の情報にたどり着くまでに何度もファイルを開き、書棚を往復するような状況で、回答にも時間がかかってしまうことがありました。
そうした調査業務は、自然と「経験のある人が速い」構造になります。知識を持っている職員はすぐ答えに近づける一方、異動してきたばかりの職員や若手は、そもそも何を調べればよいかが分からないこともありますからね。
そして、固定資産税の業務は、特に「ナレッジの断絶」が起きやすい分野です。異動によって、前任者がどう対応していたのか、過去にどんな住民対応があったのかといった背景が十分には引き継ぎきれないケースも少なくありません。調査や判断を一からやり直す場面が出てくると、現場としては相当な負担になります。
そんななかでも、職員は市民対応の質を維持しようと懸命に業務にあたっています。経験者に聞き、書棚を探し、目視で確認しながら答えを探していくのです。そこで、「もっとうまく回す方法があれば…」「情報にすぐアクセスできれば、もっと自信を持てるのに」という想いがどこかにありました。私自身、そうした気持ちから、自分なりに資料をPDF化してアーカイブ化する工夫もしていたんです。
「この中のどこかにあるはず」が、「すぐ見つかる」に
「調べる力」を支えるツールとしてkopoを選びました
kopoを導入するに至った経緯と、決め手になったポイントは何ですか?
私自身、以前の農業土木関係の部署にいた際にGIS(地理情報システム)を扱っていたこともあり、デジタルツールの活用や自治体DXの推進には関心を持って情報収集を進めていました。そこに朝日航洋さんから提案を受け、kopoを知ったのです。
最初にタッチしてみたときの印象は、正直「これはすごいな」と。これまで手作業で調べていた実務提要や通知、判例などを一括で検索できることに加え、あいまいなキーワードでも関連情報にたどり着ける――その感覚がとても新鮮でした。調査にまだ不慣れな若手職員にとっても、また、中堅以上でも異動直後の職員には、非常に頼もしいアシストになると感じました。
3ヶ月のトライアルでも、その第一印象はより強固になり、導入したいという思いが強まりました。ただ、kopoは当時、固定資産税課としては新規の業務という扱いになることもあり、庁内での予算確保にはかなりの調整が必要だったのです。実際の契約プロセスに関しては、当時の係長が中心になって調整を進め、朝日航洋の営業担当も随意契約の理由書や他社比較の資料を整えてくれて、着実に庁内の理解も進んでいきました。私の役割は、トライアルで得た実感――「これは現場で確実に機能する」という確信を、上長層に対して説得力を持って共有することでした。
結果的に、正式な導入にこぎつけることができたのは、係長のプッシュと朝日航洋の営業担当の説得力のある材料、そして私が強調していた「現場の腹落ち感」だったと感じます。あらためて、新しいツールを導入するには、「現場が納得しているかどうか」が一体感を生み、プロジェクトを前に進めると感じました。
若手・中堅・管理職、それぞれに合った使い方ができる
「調べる」がチームの力になるツールです
日々の業務で、kopoをどのように活用していますか?
kopoは、業務の調査プロセスをダイレクトに支えてくれるツールです。主に法的根拠や実務資料の検索に活用していますが、私たちの課では、職員の役割や経験年数に応じて、使い方にも自然と違いが出てきています。
特によく使っているのは中堅職員です。評価や課税の根拠を深掘りする場面や、市民からの問い合わせで「これはどう説明するのが適切か」と判断に迷う場面で、kopoを使って該当する根拠や事例を調べ、説明に役立てています。いわば「裏どり」の役割を担っている形ですね。
若手職員は、どうしても窓口対応や日々の事務処理に追われがちで、kopoをじっくり使う時間は限られています。それでも、「これについて調べてみます」と自らkopoにアクセスしようとする姿勢が育ちつつあるのは、とても頼もしい変化です。中堅職員が調べた内容を若手に伝える場面でも、ナレッジの共有がスピーディーに進みます。
管理職にとっても、kopoは心強い存在です。固定資産税を扱う部署では、土地・家屋・償却資産といった広い分野をカバーしなければならず、しかも異動したばかりだと知識が追いついていないことも少なくありません。そんなときでも、関連する法令や通知、実務書籍にすぐアクセスできるので、議会対応や市民説明の場でも落ち着いて臨めます。
kopoは誰かひとりの専用ツールではなく、チーム全体で使ってこそ真価を発揮します。「調べること」が個人スキルにとどまらず、組織全体で支え合うナレッジ基盤になる。日々の業務を通じ、そのような実感を強く持っています。
答えに迷わないことが、判断力と業務の安定感を支える
調査スピードと意思決定の質が、目に見えて向上しました
導入後、業務のどんな点が変わったと感じていますか?
導入してから、「答えに迷う」シーンは明らかに減りました。以前は、市民からの問い合わせを受けたとき、「この評価で本当に合っているのか」「この処理で問題ないのか」と自信を持ちきれず、手元の資料をあちこち探しながら、「このケースと似ているかもしれない」と判断を組み立てるような対応が日常的でした。時間も手間もかかり、精神的な負担も大きかったように思います。
今は、kopoを開けばすぐに、法令・通知・質疑応答集などの根拠資料にたどり着けます。「この件はここに書かれている」とはっきり示せるだけで、説明への自信が増しました。情報が目の前にあるだけで、これほど仕事の進め方が変わるのかと実感しています。定量的な変化まではチェックしていませんが、対応のスピードも精度も、導入前とは比べものにならないレベルです。
特に、評価や課税の判断が分かれやすいケース――たとえば、宅地と畑が混在するような土地で「どこまでが宅地評価になるか」といった事例では、kopoの存在が心強いです。判断の迷いが減るだけでなく、説明責任を果たすうえでも非常に役立っています。
市民からの問い合わせも、「なぜ税額が変わったのか」「この課税の根拠は何か」といった内容が中心ですが、そうした問いに対しても、kopoで確認すればその場で回答できることが増えました。「調べてからお答えします」という対応が減り、すぐに返せる場面が増えたことは、市民との信頼関係という意味でも大きな変化です。
また、属人性の改善という面でも、大きな効果を感じています。これまでは「この職員でないと分からない」「対応した前任者がいないと判断できない」といったこともありましたが、今では判断に必要な根拠がツール上で共有されていると言える環境です。「資産税係」というチームとして、同じ情報に基づいた判断ができるようになった――これは引き継ぎや育成という観点でも、大きな進歩だと感じています。
「ベテランの先輩」がそばにいるような感覚
困ったとき、頼れる存在としてkopoが根づいています
実際に使ってみて、部署のメンバーでどんな実感を持っていますか?
導入してから、「迷ったらまずkopoで調べる」という行動が、課内のルーティンとして定着してきました。以前は、何か分からないことがあれば、まず先輩に聞くという流れが自然でしたが、今では「これ、kopoで調べたら出てきますかね?」という会話が、若手から当たり前のように出てくるようになりました。
一言で言うなら、kopoは「そばにいるベテランの先輩」のような存在です。誰かを頼る前に、まずはアクセスしてみる。それで分からなければ先輩に相談する――そんな使い方が自然と根づいてきたと感じます。
こうした変化は、個人レベルというより、チームとしての文化になりつつあります。「誰が答えるか」ではなく、「チームでどう答えるか」を考えられるようになったこと。そして、属人化から抜け出すためには、まず共通の基盤となる“よりどころ”が必要だったのだと、今になってあらためて思います。
また最近では、生成AIとの併用も進んでいます。若手職員を中心に、調査の初期段階で概要をつかむために、生成AI(たとえばGeminiなど)を使うケースが増えてきました。ざっくりとした把握には便利ですが、やはり誤情報(いわゆるハルシネーション)のリスクがあるため、最終的な判断や説明の場面では、kopoでしっかりと裏どりする必要があります。AIは“広く浅く”、kopoは“深く正確に”。そうした使い分けが、実務の中で自然と定着してきた実感があります。
ナレッジを「個人のもの」で終わらせない
他自治体と知見を持ち寄れる仕組みにも期待しています
今後の活用や、他自治体へのメッセージがあれば教えてください。
固定資産税の業務は、自治体ごとに運用や判断のスタイルが異なるため、「他ではどうしているんだろう」と感じる場面が少なくありません。
だからこそ、全国固定資産税課横断wikiのような仕組み――自治体ごとの実務判断やナレッジを持ち寄り、運用の差異を可視化・共有できるプラットフォームがあれば、たいへん心強い。ナレッジを「個人の経験」で終わらせず、自治体間で継続的に蓄積・活用していける仕組みに、強い期待を持っています。
今後は、固定資産税にとどまらず、市民税や収税といった分野にもkopoの対象範囲が広がれば、部門を越えたナレッジの連携も一層進むのではと感じています。一方で、導入当時、庁内で関心を集めたのは費用面でした。委託費の額面は、新規業務としては決して小さくありません。ただ、膨大な紙資料を調査・共有する手間や時間的コストを考えれば、十分に納得できる水準だと考えています。
むしろ、市民税課などの他部門とも共有していくことで、「財布の出所を増やす」かたちで、コストを部門間で分担できれば、庁内全体での費用対効果はさらに高まるはずです。そういった運用の現実性を踏まえても、kopoの存在感は、今後ますます高まっていくでしょう。
これから導入を検討される自治体の方にお伝えするとしたら、「まずは一度、試してみてほしい」ということに尽きます。私たちも3ヶ月のトライアルを経て、本当に役立つと確信を持てたからこそ、導入の一歩を踏み出せました。kopoの価値は、業務の中でこそ最も実感できる――それが、私たちのリアルな手応えです。